展覧会情報|大英博物館 ロンドン・大英博物館で初の広重展。代表作「東海道五十三次」など RECOMMEND Pleasure Boats at Ryōgoku in the Eastern Capital, 1832-4 By Utagawa Hiroshige (1797—1858) Colour-woodblock print triptych Collection of Alan Medaugh © Alan Medaugh. Photography by Matsuba Ryōko ロンドンの大英博物館にて、浮世絵師・歌川広重(1797–1858)を紹介する大規模な展覧会「Hiroshige: Artist of the Open Road」が開幕した。会期は2025年9月7日まで。ロンドンで広重の仕事に焦点を当てた本格的な展覧会が開催されるのは、およそ25年ぶり。大英博物館としては初の試みとなる。 日本橋 東海道五十三次之内 朝之景/1833~35年 Nihonbashi – Morning Scene, from The 53 Stations of the Tōkaidō, c. 1833-35 By Utagawa Hiroshige (1797—1858), Colour-woodblock print © The Trustees of the British Museum 代表作である版画シリーズ《東海道五十三次》や《名所江戸百景》をはじめ、風景画や美人画、花鳥図、団扇絵など、110点余の作品が集う本展。その多くが、米国のコレクターであるアラン・メダウ氏による寄贈および貸与作品で構成されており、これまで一般に公開される機会のなかった希少な版画も含まれている。 武陽金沢八勝夜景(雪月花之内 月)/1857年 Evening View of the Eight Scenic Spots of Kanazawa in Musashi Province,1857 By Utagawa Hiroshige (1797—1858) . Colour-woodblock print triptych Collection of Alan Medaugh © Alan Medaugh 「Hiroshige: Artist of the Open Road」は「広重:旅の画家」と訳すことができる。広重は、幕末という時代の空気のなかで、旅と風景を独自の色合いでとらえ続けた絵師だ。彼の描く世界は、単なる名所案内にとどまらず、気配や季節のうつろい、そして人の営みをも映し出す。とりわけ《名所江戸百景》に見られる大胆な構図や光と影の扱いは、視覚的な革新としても注目に値する。 名所江戸百景 亀戸梅屋舗/1857年 The Plum Garden at Kameido from 100 Famous Views of Edo, 1857 By Utagawa Hiroshige (1797—1858) , Colour-woodblock print Collection of Alan Medaugh © Alan Medaugh. Photography by Matsuba Ryōko さらに本展では、こうした風景版画に加え、江戸の人々に日用品として親しまれた団扇絵や、詩文とともに描かれた花鳥画といった小品も紹介されている。広重の幅広い制作活動と、庶民文化とのつながりが、より立体的に浮かび上がる構成だ。なかでも団扇絵は、海外での展示が極めて珍しいため、本展でも注目されている。その繊細な意匠には、江戸の暮らしに根ざした美意識が静かに息づいている。 東海道秋月 武州神奈川台之図/1839年頃 Tōkaidō Autumn Moon: Restaurants at Kanagawa, Musashi Province, about 1839 By Utagawa Hiroshige (1797—1858), Colour-woodblock print Collection of Alan Medaugh © Alan Medaugh 左から「紫苑に鶴」「満月に雁」「菊に雉」 全て1830年代初期 Crane and asters (early 1830s) [left] Three geese and full moon (early 1830s) [centre] Pheasant and chrysanthemums (early 1830s) [right] By Utagawa Hiroshige (1797—1858), Colour-woodblock prints Left: Gift from the collection of Alan Medaugh to the American Friends of the British Museum Centre and right: Collection of Alan Medaugh ©Alan Medaugh. Photography by Matsuba Ryōko また、広重の影響は日本国内にとどまらず、19世紀末以降の西洋美術にも及んでいる。ファン・ゴッホはその構図や色彩に魅了され模写を試み、ホイッスラーらはその空間感覚を作品に取り入れた。広重は、異文化における視覚表現の地平を押し広げた存在でもあったのだ。本展では、広重の影響を受けた西洋作家たちの作品も合わせて鑑賞することができる。 展示風景 © The Trustees of the British Museum この展示はロンドンを訪れる人にとって貴重な機会であると同時に、足を運べない人にとっても、広重の作品世界に思いを巡らせるきっかけとなるだろう。江戸の風景に託された感性は、時を超えて、今なお私たちの目と心に語りかけてくる。 日本国内では、栃木市立美術館にて「大広重展 ―東海道五拾三次と雪月花 叙情の世界」が開催中(6月15日まで)。また東京・上野の森美術館では、5月27日から7月6日まで「五大浮世絵師展—歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」が開催される。ロンドンで開催中の「Hiroshige: Artist of the Open Road」と合わせて、こちらにもぜひ注目したい。 *雑誌『目の眼』で巻頭コラムを連載中の矢野明子さん(大英博物館アジア部三菱商事キュレイター)も、6・7月号で特別展「広重」のみどころを紹介しています。こちらもご覧ください。 『目の眼』2025年6/7月号 Information Hiroshige: Artist of the Open Road 会期 2025年5月1日(木)~9月7日(日) 会場 20251120 住所 Great Russell Street, London WC1B 3DG UK (地下鉄 Tottenham Court Road、Holborn、Russell Square 駅から徒歩圏内) URL www.britishmuseum.org/exhibitions/hiroshige-artist-open-road TEL +44 (0)20 7323 8181 Auther 山田ルーナ 在英ライター/フォトグラファー この著者による記事: 2025秋のシャトゥ蚤の市。フランスの小さなカフェオレボウルと、見立ての旅。 Others | そのほか 縄文からつづく祈りを纏う。岡﨑龍之祐初のV&A展「JOMONJOMON」 People & Collections | 人・コレクション アラビア〈バレンシア〉の絵付けにみる、北欧デザインと生活。 Vassels | うつわ アンティークの街・ルイスで出会ったグラスと、生活の色気 Vassels | うつわ 二千年の湯けむりと、五千年の石の輪を旅して History & Culture | 歴史・文化 石に囲まれた風景と、人の暮らしに根ざした歴史をたどる History & Culture | 歴史・文化 ケルン大聖堂 響きあう過去と現在 ー 632年の時を超え、未来へ続く祈りの建築 History & Culture | 歴史・文化 アルフィーズ・アンティーク・マーケット|イギリス・ロンドン Others | そのほか 名所絵を超えた“視点の芸術”が、いま問いかけるもの Calligraphy & Paintings | 書画 ジュドバル広場の蚤の市|ベルギー・ブリュッセル Others | そのほか RELATED ISSUE 関連書籍 目の眼2025年12月号・2026年1月号No.584 廣田不孤斎の時代 新しい美の発見者 廣田松繁(不孤斎 1897 〜1973)は、東京・日本橋に西山保(南天子)とともに壺中居を創業し、国際的評価の高い鑑賞陶磁の名店に育てました。今号は小説家の澤田瞳子さんをはじめ、不孤斎本人を知る関係者の方々を取材。旧蔵品や資料から、不孤斎が見出した美を特集します。 そのほか宮武慶之さんと陶芸家の細川護熙さんの対談や、デザイナーのNIGO®さん、起業家の伊藤穰一さんへのインタビューなど、現代数寄者やクリエイターの方たちを紹介します。 試し読み 購入する 読み放題始める POPULAR ARTICLES よく読まれている記事 昭和時代の鑑賞陶磁ブーム 新たなジャンルを作った愛陶家たち People & Collections | 人・コレクション 映画レビュー 配信開始|骨董界の夢とリアルを描いた 映画『餓鬼が笑う』 Others | そのほか 連載|真繕美 古唐津の枇杷色をつくる – 唐津茶碗編 2 Ceramics | やきもの 連載|辻村史朗(陶芸家)・永松仁美(昂 KYOTO店主) 辻村史朗さんに”酒場”で学ぶ 名碗の勘どころ「井戸茶碗」(前編) Ceramics | やきもの 世界の古いものを訪ねて#1 ジュドバル広場の蚤の市|ベルギー・ブリュッセル 山田ルーナOthers | そのほか 骨董ことはじめ① 骨董と古美術はどう違う? History & Culture | 歴史・文化Others | そのほか 茶の湯にも取り入れられた欧州陶磁器 阿蘭陀と京阿蘭陀 Ceramics | やきもの 東京アート アンティーク レポート#3 骨董のうつわで彩る”食”と”花” Others | そのほか 世界の古いものを訪ねて#6 アンティークの街・ルイスで出会ったグラスと、生活の色気 山田ルーナVassels | うつわ 骨董ことはじめ② めでたさでまもる 吉祥文に込められたもの History & Culture | 歴史・文化 東京・京橋に新たなアートスポット誕生 TODA BUILDING Others | そのほか 眼の革新 大正時代の朝鮮陶磁ブーム 李朝陶磁を愛した赤星五郎 History & Culture | 歴史・文化